東京高等裁判所 昭和29年(う)492号 判決
被告人 欧金
〔抄 録〕
論旨は、原判決は法令の適用に誤があつて、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない、というのである。そこで原判決を査閲すると、原判決は本件公訴事実中「被告人はパナマ船イースタン、トレーダー号の乗組船員であるが、関税を逋脱する目的を以て昭和二十八年十月十九日頃香港において右イースタン、トレーダー号内の自己の船室内に外国製腕時計四、三一四個を隠匿した上同年十一月二日横浜港に入港し、以て右腕時計に対する関税(三百七万九千二十円)逋脱の予備をなしたものである」との事実を認定し、右関税逋脱予備行為が同時に物品税法第十八条第一項第二号後段に触れるものとして提起された物品税法違反の訴因に関しては、同条項第二号後段の規定は未遂の外予備行為をも処罰するものではあるが、詐欺その他不正行為のともなう予備行為のみを処罰する趣旨であつて本件のごとき予備行為自体に詐偽その他不正行為のともなわないものは同号後段の罪を構成しないものと判断していることは所論のとおりである。よつて按ずるに被告人は昭和二十八年十月十九日頃前記イースタン、トレーダー号が香港に碇泊中すでに関税その他を免れるため同人の船室の板壁の内側に前記時計を紙包のまま隠匿し翌月二日横浜港に入港したものであるから関税物品税等を逋脱しようとする目的でその準備行為をなしていたことは明らかである。しかして物品税法第十八条第一項第二号は「詐偽其ノ他不正ノ行為ヲ以テ物品税ヲ逋脱シ又ハ逋脱ヲ図リタル者」と規定せられており、その後段の規定は通常の文理解釈に従えば、所論のごとく未遂の外同号前段の「詐偽其ノ他不正ノ行為ヲ以テ物品税ヲ逋脱」することを要件とする物品税逋脱犯を実行する意図のもとになすすべての準備行為をも処罰の対象とし、その準備行為自体に詐偽その他の不正の行為のともなうことを必要としないものと解すべきこと、予備行為の本質にも合致し、また昭和二十八年二月二十八日法律第六号による改正前の酒税法第六十一条第一項第三号の規定及び昭和二十五年四月三十日法律第一一七号による改正前の関税法第七十五条本文の規定の解釈上からもこれを首肯し得べきところであるが、ひるがえつて物品税法全体のたて前から考えれば、物品税については、酒税における場合等とは異なり、詐偽その他不正の行為を以て物品税を逋脱しようとする意図のもとに物品税法第一条所定の物品の材料を購入する行為のごときはいまだ処罰の対象としないものと解せられるのであつて、果して物品税法第十八条第一項第二号の規定が物品税逋脱犯の予備行為をも処罰の対象としているか否かは全く不分明といわるざを得ず、むしろこれを処罰の対象としていないものと解するのを相当とする。(昭和二十九年(う)第六七三号、同年七月二十日東京高等裁判所第五刑事部判決参照)されば原判決が本件被告人に対する公訴事実中関税法違反の事実のみを認め、物品税法違反の事実を認めなかつたのは結局正当であり、論旨は理由がないものといわなければならない。
註 本件は曩に当室時報第五巻第七号一六七事件として掲げた事案と同一のものであつて結論も同趣旨。